昔のことなど その1/2

ある時、自分が好きになった人がいた。
ちょうど、ちょっとしたことで、彼女と疎遠になった時だったので、なんとなく心寂しい気がしたのは事実である。
好きになった人は、「カオリ」とい名前だった。
ちょっと蓮っ葉なところのあるスレンダーな女子であった。
面長で、ボブカット、全体的に細くて、足も長くて、薄い。
体の曲線は流れるようであった。
タイトスカートがこれほど似合いう人をあるまいというぐらいの腰から足首にかけてのラインが素晴らしかった。
背は高いので、見栄えは良かった。
でも、見た目は怖い感じのする人だった。
その人とは、夜間の英会話学校で知りあった年上の人であった。
授業が始まる前に早く来ていると、時々予習のことで話をするようになって、その内よく話をするようになった。
形の良い足を組むと、まるでボーグのモデルのような風体だった。
ある時、帰るとき先生と話をしていて、遅くなったときに駅まで送ってあげようかと言われて車に乗せてもらった。
好い匂いがいがしたものである。
仕事が忙しかったようで、週2回の授業にも、あんまり参加していなかった。
時々来ると、駅まで乗せてもらい車の中で話をする中になっていた。
すると、ダイハツに勤めている同じクラスの人から、そんな関係を知られると、ちょっと、驚かれたりした。
結構仲が良くなると、平日の授業の無い日、こちらが家庭教師の授業の無い日に、会うようになった。
会うと云っても、会って、車の中で話をするだけである。
たまには、食事に行くこともあったが、基本的には高いところは行かなかった。
というか、こちらの懐具合を見透かしているようだった。
親丸抱えの大学生なんて苦労を知らない。
はっきりとは言わなかったが、結構大きな会社にご勤務だったようである。
勤務先が、分かったのは、某社の社員の人から聞いたのである。
教えてくれた人は、海外勤務の予告があったので、予習的に語学勉強に、通っている人だった。
たぶん、同じ会社の人だと思うと聞いたからである。
ずるずると付き合ってると、彼女の家に行くようになる。
自然と、男と女の仲になる。
彼女の家といっても、借りているマンションだからでだれにも気兼ねすることなく会うことができた。
大学4年生の時は、すでに全単位を履修していたので、大学に行くのは週1回で済んでいた。
卒業に関係のないゼミと前期で終わる講義、教育実習関係の授業だけだった。
昼間は、ほとんど大手学習塾の事務の仕事をしていた。
塾では、その頃は、導入したてのロータス1・2・3、一太郎を使って、統計資料や、講義資料を作成していた。
同時期に、その塾では自主映画を作成していた。
竹中直人氏が出演した映画だった。
製作もバイト、こちらは統括本部というところの何でも屋のバイトだった。
お互いコキツ使われている感があった。
夜は、彼女と会うときは、大体の予定を聞いて待っていた。
ある雨の降る夜、英語学校もやめる予定だったので、こちらはさぼり気味で、彼女の家に居た。
途中、黒電話が鳴っていたが、彼女は無視していた。
何度目かの電話なったので、受話器を取って隣で寝ていた彼女の耳元にあてた。
すると、女性の声で、「どこへ行っていた」、「何度も電話したのに出ないのは・・」「事故」「危篤」といった言葉が聞こえてきた。
すると、弟さんが交通事故に遭ったということであった。
病院名が伝えられた。
ほんの15分ほどの距離だったが、雨の降る晩である。
彼女は、動揺して運転できなかった。
僕が、運転をして病院行くことにした。
緊急外来で聞くと案内をされた。
カッパを着た警察官が歩いてきた。その先に、彼女の父親がいた。
もう一人好青年が居た。
彼女を連れて行くと、彼女は、そのまま病室へ。
父親に連れ添われて、中に入った。
青年は入っていかなかった。
面会謝絶であった。
両親と入って出てこない。
こちらはもう10時を過ぎていたので帰らなければならない。
好青年が、お兄さんか何かと思ったので、彼女と話がしたいので呼んできてもらえないかと頼むと、すさまじい顔で睨まれた。
看護師さんを通して呼んでくれたが、危篤ということで埒が明かなかった。
彼に、車のカギを預けようとしたが、拒否された。

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ある晴れた日

ある晴れた日に、外にでると

空は抜ける様に青い

青いけれども、いつもよりも空気が澄んでいる気がする。

こんな晩に、星空を眺めると奇麗だろうと思った。

先ほど、風が強く、雨も降った。

嵐の様だった。

夾雑物は、流されたように青い。

雲は、雲の上に乗り、さらに高いところへ向かう。

緑濃い山間には、雲がしみ込んでいる。

夏は、たけなわである。

雨のもたらした、水滴が、空気に浸潤する。

熱を含んで、包みこんで浸潤する。

苛烈な太陽は、照らす照らす。

地面に残った雨の痕跡を、さっさと消し去り、

残された小さな水たまりが、雨の存在を訴えるような午後

車に乗って出かけると、空気が心地よい。

日差しは、ささるようだが、流れる空気は心地よい

車は、駆ける、駆ける

疾走する。

山を越え、谷を横切る

古い街中を通り過ぎ、死者の行列を追い越す。

死者は地面に消えていく。

銀の車体は、空気を後ろへ、後ろへと流していく。

切り裂くくのではなく

櫓にまとわりつく水流の様に、付かづはなれず

流れる流れる。

空気は、重い壁になる。

空気の目のこじ開けていく。

走れ走れ

走る走る

手の中のシフトが躍る。

心も踊る

楽しい。

空気が楽しい。

空気が歌う、撥ねる

音が跳ねる、流れ去る

エンジンの音も高らかに。

走れ走れ

僕とともに

 

帰ると、もう暗くなっていた。

神様を信じていた頃、人工衛星が軌跡を描いてるのが見えると云われて、石の上に立って眺めていたことがある。

そんな気持ちで、空を眺めることはなくなったけれど、

星空を眺めることは今でも好きだ。

29年前に、11月中旬に、木曾の山奥で、星を眺めた時も、

45年近く前に、岐阜の山奥で見た、星空も、

みな綺麗だった。

本当に、口から、「きれいだなぁ」とつぶやいた。

50年ほど前に、祖父の山奥にある別荘へ行く途中、國鐵の驛舎を出ると、駅前は静かで暗かった。

見上げると、

空は、金剛石でもばらまいたような光の粒が光って見えた。

銀河鉄道の夜を地で行くようであった。

ああ、もう一度、逢いたい人がいる。

20200520

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夢の話(第十三夜)

こんな夢を見た

月の光に照らされている、まっすぐな道だ

両脇には枯れススキが寂しそうに波うっている。

月光は、ススキを白銀の野かえていた。

だが、今日は、風のない、穏やかな日和だ

月が照り輝いている、そのせいか、日ごろなら、凹凸のはっきりしない道端の地蔵尊さえ彫が深く見える。

その道を、網代笠をかぶって歩いている、笠の端を、持ち上げては、道を見透かそうとするが,山なりの道は、果てを見せない。

さて・・夜もふけたが

雨でも雪でもなし・・「ここいらで、野宿とするか。」と小さな声でつぶやいた。

道端で寝るのもいかがなものかと思うので、一宿の場所を探すが、だだっ広い野原ばかり。

ゆるゆると歩んでいると尾¥小さな丘が見えた。

丘に行く小さな道がある。

丘の上には、一本だけぽっねんと生えている木が見える

空腹を隠すためにもゆるゆると歩く

たどり着くと、楡の木で、小さな丸石が立っている土饅頭が一つ。

とはいえ、木の下は、下草が伸びて居ないので、横たわるには適当である。

小さな土饅頭を避けて腰を下して、竹筒を出して水を飲んだ。

歩きつかれた体には甘露である。

今日もよく歩いた。

もうすぐ、生まれ故郷かと思うと、少々気が滅入る。

元は、庄屋の次男で、江戸に出た分家の養子になり、商家の家督を継ぐはずであった。

しかし、実子が生まれると疎まれた。

商人になるための生活をしていたが、算術の先生は、剣術も教えてくれた。

成人する頃には、やはり、実の子に、店を継がせたいと言い出したので、身の置き所がなくなり悪書通いを始めた。

親元に、その旨を告げると、帰ってくるかと云われたが、いまさら、草深い田舎に帰る気などなかった。

分家の養い親は、疎んじていたが、申し訳がないと言って身の行末を、案じてくれた。

そうして、「やっとう」ができるからという事で、御家人株を買ってもらい武士に成った。

算術ができるという事は、この頃の武士には、剣術ができるよりも価値があった。

そこまで思いだして、

ふと考えた

自分の年を考えれば、親兄弟は、既に亡(な)いであろう。

生きていれば、と考えても詮無(せんな)い、事である。

月明かりに照らされて・・・周りは幾分白い。

風はないが、底冷えのする寒さがある。

僧門に入って以来、僧正と云われても、修行の身であるという事に代わりはないと思っていた。

ある時、雲水修行に出るべき時が来たと思い、白雲に身を任せて歩むこと、日多しである。

昼間の通った村でもらった握り飯は既にない。

空腹ではあったが、眠りたいと思ったので横になった。

目をつぶり、何も考えないようにしていると、突然、上の方から声が降ってきた

「お坊様」

どこからか声が聞こえる

「お坊様」

今度は、はっきりとした口調で

「お坊様」

三度も呼ばれれば答えなければならないと思い起き上がって、周りを凝視した。

もう一度、呼ばれたが、今度は後ろから聞こえて風であった。

振り返ると

山猫回しを背負った女が立っていた

顔は影になってよく見えない、目ばかりがピカピカしている

「なんだね?」と聞きながら、体の向きを変えた

女は、何かに応ずる様に、少し振り返った様に顔の向きを変えた。

すると月の光で、顔の輪郭が見えた。

そうして、髪に刺したかんざしの金具が揺れる

狐、狸の類(たぐい)ではなさそうであった。

顔をこちらに向けながら

「こんなところに一人でいると魔に遭うよ」という、

「そうかな?」

と云いながら立ち上がろうとすると、歯切れよく

「そうさね、遭ってからだと遅いよ」

と云った

再び「そうかな?」と答えると、にやりと笑った気がした。

そこで「もうあっているのかね?」と云いながら、裾の土を払って立ち上がった。

「ハハハハは・・そんなことは無いね、あたしゃ、山猫回し。

化け物を使うことをあっても、使われることはないね

それとも、あたしが化け物だとも?」

かぶせるように云うので

「いいや、そうだとしても、そうはいえない・・な」

またにやりと笑って

「そうかえ

お坊様は、化け物を見たことがあるのかえ?」

そう云いながら、身じろぎ一つしていない。

「ばけもの?

そこ許(もと)の云う化け物と云うのは、人が化けたものか、化け物が人に化けたものか?」

「さあねぇ

ここには、どっちでもいそうだよね。

坊さんはどっちだい?」

「どっちとは?」

ふと、心の底を覗かれるような気がした。

そこで、告解するように、

「一度、畜生道に落ちた身の上、人が化け物に化けておった時期もあった。」

すかさず

「いまは?」

おのれの罪を悔恨し、善根を積み衆生の手助けをして、自身の罪を少しでも減殺することを望んで生きてきた、もう恥じるようなことはない。

そう思うべきではないかと、思っていた。

しかし、それは自己満足でしかないのではないかと思う事もある、そこで

少し、下を向いて「はてさて・・いずれかな?」と自信なさげに答えた。

すると、山猫廻しの女は、頭に手をやると、かんざしを抜いて見せる素振りをした。

「ふふふふ・・・ところで、このかんざしに見覚えは無いかえ?」

白い手のひらには、サンゴ玉と揺れる金飾りのついた簪(かんざし)を見せた。

かんざしを、坊主に見せてどうする?そう思った刹那に

口調を変えて

「いやなにね・・・、ご坊様、遠い昔に見覚えはないかねと思ってね」

よっく見ると、ずいぶんと古いものに見える。

「古いものだなぁ」と素に戻ったように答えた。

優しい声で、「ええ、もう70年も前のものですよ」と云った。

最後の語調は絡みつくようである

よく見ると、なかなかいい細工だ、江戸でも中々ないな、こんなものが作れるのは。

そう思って、手に取って見た。

しげしげと眺めていると、

「御坊は、江戸にいたことが?」

すると、苦いものが喉をせりあがってくるようであったが、平静をよそって

「ああ、若い頃、畜生道に落ちていたころにな・・」と答えると、言葉の端が切れる前に

かぶせる様に

「そうして、こうして、旅に出た?」

かぶりを振って

「いいや、ある理由でな・・・」

顔が近づいてくる

「元お武家?」

ふいに耳元で聞こえた

少し怒気を含んだ声で「なに?」というと

女は、元の位置にいる

「いや、なんとなくさ。」と笑いながら云う

 

不可解な気持ちを見透かされたのか

「そんな雰囲気がしていたんでね、背中にね」

70年此の方、衆生の災厄を取り除き、善行を積むことばかりを考えていたことを思い起こした。しかし、一番大切なことを忘れているような気がした。

少し気弱になって、足が一歩前に出た・

「そうか・・そん感じがするか?」

女は、少しあとずさりした

「します、します・・抜き身剣みたいな感じがしますねぇ、おおこわ。」

また後ずさりをするように見えた。

つい「こわがらんでもいい・・・」と云ったが、気持ちではこちらが負けている。

山猫廻しの女は、今度は前に出ながら、

「ええ怖がりませんとも

ところで、なんで・・・江戸を?」

「売ったのか?・・・・か?」伝法な口調についついなった

何十年も修行が、胡散霧消したよようである。

にやりと笑いながら

「さしさわりがなければ・・」と云った瞬間、

女の口が、耳元まで裂けて見えた。

やはり、物の怪の類(たぐい)かと思った。

だが、ふと、話をした方がいいかと思った。

自身の深い罪業は、何十年と修行をしても、乞食の修行をしても消えなかった。

沙門に身置くとき、大徳寺の大僧正に話して以来の事だと思った。

化物を前に、身の罪業を語ることも、良いかもしれないと思った。

「人を、斬ってな。・・今考えれば、元は、つまらぬことであった。

結婚を申し込んだら、鼻で笑われた。

「百姓の出の侍に、どうして、大切な妹を遣らねばならぬ?」そう言われてな」と云って一息ついた。

まるでも見通すように、言葉を投げつけてきた

「思わず刀を抜いたと?」

 又、口が裂けて見える。

そうして、その言葉を継ぐようにして、

「そうして、人をあやめた。」と小さな声で言葉を継いだ。

 山猫廻しの女の目が吊り上がって見える。

 「勘定方の同僚だった、算術よりも剣術自慢だった。」

 「ふー」と息を継いだ。

 「私を百姓の出とバカにする同僚の多い中で、唯一、そんなの事を云わない人だった」

 体の奥が羞恥心で、燃え上がるような気がした。

 「家に呼ばれて、労をねぎらわれることも多かった。

  そこの妹御がよい人で、妙齢になる前にはよく茶などを運んでくれたものである。

  そこの家の菜園の事を、聞かれたので、話をすることあった。

  そうして、隠れて合うようになった。」

 頭を抱えて

 「勘違いをして居った。」

 と云い様、顔を上げて

 「妹御は、嫁に行きたがらないとこぼして居るのを聞いて、ある時、妹御を嫁にもらえまいかと頼む気になった。」

 出勤にあらざる日を選んで、頼みに行った。

 「おぬし、商家の出であるが、元は百姓の子せがれと云うではないか、武家の娘を、百姓にやるほど落ちぶれてはおらん」

そう云われた。

その時、身が瘧〈おこり〉を、起こしたように震えていると、畳みかける様に、こうも云われた。

「腰のものは、大方、竹光(たけみつ)であろう。

 愚なものをさして来るとは。

 恥を知れ」

そこまで言われて、真っ白になった。

腰のものは、生憎と竹光ではない、思わず抜いて斬った。

「へぇ、どんな塩梅で?」いよいよ狐の化け物の用意見える。

「ああ、一刃両断に、な・・そのときの骨をきり割る感覚は今でも残っている。」

「あら、そう、結局、斬っちまったんだ、お武家は、ばかだねぇ。

斬ったあと・・・そうして、お嬢さんでも連れだしたという訳で?」

 「なに?」険しい声が思わず出た

「いやさね、むかし江戸にいた頃、瓦版で読んだ話にあったなあと思ってさ・・」

「・・・・瓦版に載ったのか・・・」

「瓦版には、逃げた後で、手に手を取り合って、自刃したなんて書いてあったけれど、当人が此処にいるんじゃぁそうでもないんだねぇ」

ここからの事は、畜生道の事だから言えない。

山猫廻しは手を緩めない

「そのお嬢さんと、手に手をとって逃げた先は?」

心の中で、逃げる場所なんてありゃしないと、答えていた。

匿ってもらうには、実家へ戻るしかないと考えた。

分家に迷惑をかけてはならんと思ったが、わけを云わずに、金子を借り、町家の娘の髪に結い直して、偽の道中手形を手に入れて逃げた。

そう、口に出さずに、思い出していたが、口から出た言葉は

「足弱を連れて逃げるのは難渋であった」という短句しか口をついて出はしなかった。

また下を向いてしまった。

山猫廻しの女が、口調を変えて

「ちょうどこんな道を通りかかったときに、不意に腹痛を起こしたねぇ」

そうして、私の口から

「そう、そうして一歩も歩けなくなったのだ・・・」

「こいつ、何でもよく知っているなと」心の中でつぶやいた。

再び顔を上げて

「急がねばと想いつつも、足弱連れでは・・・

そこで思案をして、付近の農家に、妹御を預けて、道を急いのだの」

そこまで言うと、山猫廻しの女の口調は、さらに、妙な暗さを秘めた込めた語調に変わった。

「いいや、預けたんじゃなくて、捨てていったんだ。

誰も通らない、この野原に、路銀も取り上げてね。」

「どうなった」

「どうもこうもないさ、あんたは知らなかったかもしれないが、実は身重だったのさ」

「え」

「亡くなったのさ。」

「どこで?」

 「どこでって、此処でさ。

あんたの座っている土くれのところにちょうど倒れておいでだった。  

声をかけると・・・必ず帰ってきます・・とね」

 

「そんな」

山猫廻しの女の見下ろす目線が痛い。

女の足元を見ると、月影がない。

「その土饅頭の下には、あんたのいとおしいお嬢様と息子がお眠りだよ」

「ええ・・・」

そのとき、倒れたススキが青白い手の様に伸び、僧形の男の手をつかんだ・・ように見えた・・・

男は、振り払おうとしたが、ススキの原では、十重二十重と取り囲まれてしまい・・・逃げられない

息も絶え絶えに「お前は?」と聞くと

耳元まで裂けた、口からは、

「山猫廻しだよ」と云った。

朝、僧形の者は、冷たくなっていた・・

 

こんな夢を見たのは、何十年も前だ。

 

20200319

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こんな夢を見た(第十二夜)思い出など2

社会人になる直前・・・年上の彼女に、もう29なの、といわれて回答が出来ずに、思い悩んでいた頃。

厳冬のさなかに遠路を歩いて帰ることが多かった。

暗い夜道を歩いていると、前からちょうちんを持った人がくる。

新月なのだが、ここは、いわゆる閑静な住宅地と云われる一角で、幾分、暗い

とはいえ、街中なので、ほの暗い程度である

いまどき、提灯は無かろうと思いつつも進んでいくと

その昔、お屋敷があり、大きな武家の門と築地塀がのこっている一角を通っている時だったのであまり違和感を感じることもなかった。

けた外れに大きく、閉じられている門のくぐり戸を開けて入っていく姿が見えた。

はて、こんな夜更けに、此処で、何かもようしでもあるかと思ったが

時間が、不適当である。

提灯を持っているのは、初老の白髪の老人だが、所作から、老婦人であろうと想像はついた。

老人の後ろには、珍しくも203高地髷の婦人の姿が見える、振袖を着ている。

提灯の淡い光に照らされた顔は、目元の涼しい風情を垣間見た。

いや、垣間見たような気がした。

今どき203高地曲げとは、珍しいなという感じが先にたったが・・

惚れ惚れするような立派な旧宅なので、さもありなんとおもいつつ通り過ぎた。

そんなことを、もう忘れかけたある日、

その日は、明け方からふりだした秋雨は、一日中降り続き、水煙で町中を覆ったような夜半であった。

自分は、傘が性にあわないので、マントを着て足早に、件の大門の前を通ると・・

チーンという音がする

なんだか、白檀(びゃくだん)を炊き込めたような匂いが、ほのかに漂ってくる。

ふと、数ヶ月前の夜のことを思い出した。

白檀の匂いがなんとなく、203高地髷の婦人を想起させた。

すると、潜り戸が静かに開き、

件の婦人が顔を覗かせた。

やはり、203高地髷のままだ

ここの若婦人か知らんと思いつつ通り過ぎようとすると。

声を掛けられた。

もし、お待ちになってください

はい

行かないでくださいませ

お待ちしておりました、来る日も来る日も・・

あなたがお通りになる日を

驚いて立ち止まると、眼前には、夜目にも鮮やかな着物を着た婦人が立ちすくんでいた。

先日いただいた文のお返しを、此処にお持ちしました。

私、見合いをしました、断わることなど出来ません、

10月には嫁ぎます・・

もし、あなた様が私のことを忘れないとのお気持ちがあれば、時代が変われば、来世でも一緒になれると思いまする。

手に握られた、奉書巻紙を押し付けるように、胸元へ入れ込んだ

体は、夫のへゆきまするが、心は、あなたとともにあります

お忘れになりませぬように

私の心思ってくださるのであれば、必ずやあい見えんことを誓ってください。

そのとき、

嬢さまという声が、秋雨のけぶる邸内から響いた
では・・ごきげんよう

そいって、婦人は門内に消えていった。

うつつかと思いつつも・・手紙は手中にあり、急ぎ帰宅し、食事もせずに油紙に包まれた手紙を見ると

表には、女文字で

「Kさまへ」

中を見ると、巻紙にやさしい字体で思いがせっせつとかいてある。

末尾には

昭和拾二年吉日 

昭和12年?

翌日行って見ると、昨晩見えた家は無い

はたして・・?

夢か、幻かと思いつつ再度手紙を探したがない。

やはり夢であったか。

数日後、祖父が無くなり長持ちの整理と形見分けの品の選択で、蔵の中の長持ちを開けると

一番下の新聞紙の下に隠すように

件の油紙に巻かれた手紙があった。

時代を経たようにところどころ染みになったところもあるが、

Kさまへ

という字を見たときには、先日のことながら急に

懐かしさを感じた・・

Kさま

たしかに、祖父の名である

小生は、祖父の一字を頂戴している・・

祖父の想う人とは、かの婦人であったか・・

祖父の葬儀の日に来ていた、老婦人を思い出した

時々、御園座で、この歳で逢引をしているのがばれると、お互いの連れ合いが草葉の陰で怒るかな?といっていた相手の老婦人が・・

そうかと思い起こした。

妻は、かの婦人の孫である。

それを知ったのは最近のことである。

 

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こんな夢を見た(第十一夜)、思い出など

夏のある日、彼女を迎えに行くと、絽の着物を着て出てきた。

車で行くと、止める場所が面倒なのと、途中で歩くと暑いので、タクシーを呼んであった。

背が高いので、着物はそれほど似合わない。

夜会巻きなので、余計の高く見える。

車はもう来ていた。

乗り込んでから

「今日は、 歌舞伎だから着物なの?」と聞くと。

「虫干ししたら、何となく今日はこれにしようと思ったの・・・これ、お母様から借用させてもらったのよ」と云いながら、車内の奥へ腰をずらした。

車内は程よく冷えている。

「御園座まで」というと、車は滑り出した。

彼女は、続けて

「でも本当は、おばあさまのお召しなの・・絽の着物でね、すずしいの、見た目も、いいでしょ」という

これを見たときに・・・

どこかで見たことがあるような気がした。

白檀の香りがする・・・

そのとき

ふと思い出したのは、小さいころのことである。

祖父に、つれられて・・歌舞伎を見に行っていた時のことであったような記憶がある。・・

風の品のいいおばあさんがお召しになっていた・・・着物に似ているような気がした・・

夏のさなかで、氷柱がロビーに立っていた。

クーラ―の効きが悪いのか、その日は暑かった。

暑いと言って不満を鳴らすと、祖父は、氷でも食べるか?と云った。

小さな青いガラスに盛られた氷は雪のよう。

緑のシロップが、掛けれると、トロッと溶けた。

小さなスプーンでカキ氷を食べていると、いつも合うご婦人が、日傘を下げて寄ってくるのが、見えた。今日は、小さな女の子がいた。

ご婦人と云っても、おじいさまよりも、若干、若い程度で、老人の部類に入る人である。

僕を尻目に、おじいさまとこの良く遭う、ご婦人は並んで座った。

はたから見れば、仲のよさそうな老夫婦に見える。

近くを通る、ご婦人がたが、「あら、かわいらしいお子達ね。」と云いながら通りすぎていく。

よく見かけるおばさんが、

「ぼく、いいね。おじいちゃんとおばあちゃんに連れられて歌舞伎見るなんてねぇ・・今日はお姉ちゃんと一緒なんだね」と云われた。

おじいさまと、ご婦人は、座っているだけで、特に話もしない。

二人は、何にも話さなくて・・時々、見合っているという感じがするだけ。

ご婦人が、「今日は、うちの孫を連れてきましたの。」と云った。

おじさまは、「初孫ですな」とほほ笑んで云う。

さも嬉しそうに「ええ」

おじいさまは、隣に座って足をプラプラさせている子に向かって、

「お名前は?」と聞く。

「〇〇」と下を向いて答えた。

よく聞き取れなかった。

ご婦人は、「私の名前に似せたというのですよ・・うちの娘は、自分みたいにおてんばじゃないようにと、そう言ってね。私か、鞠子なので、お母様みたいに、と云いながら、新時代なんで、子を取って「まり」にしたそうです。」

「そうですか・・うちの坊主は」と云いながら、僕の頭を撫でながら、

「私の一字をとってね、総領なので一郎とつけました。」

「まぁ、うちのは一字を取り、あなたのところは足したなんて、いい事ですわ」

と云いながら、女の子の方を見た。

足をプラプラさせながら、「ねぇ、おばあ様、この人たちだあれ」と聞いた。

すると、唇に人差し指を当てて、「内緒なの」と云ってほほ笑んだ。

娘は片付かないかおをして、「ふーん、お母様には内緒なの?」と聞いた

「そうよ、内緒」と云って、意を決する様に立ち上がると、「じゃあ、今日は、かえりますね」と云った。

いつも程よい白檀の匂いのする人だったなぁと思いだした。

そうして、この思い出話をしたら、彼女は、ちょっと怖い顔をして

「あなた、覚えてないの?」

と云って

「ばぁかねぇ」

と云いながら。

「あの時の女の子のこと忘れたなんて言わさないぞ」と笑いながら言った。

そう、彼女「まり」と云うのである。

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こんな夢を見た 第十夜

今日は、記念日だという。

何の記念日だい?と聞くと、毎日記念日さと云われた

さてもさてもいろいろだなと思う。

そう思っていると、「伝(でん)さん」と声かけられた。

顔を向けると、与三郎が寄ってきた。

「やぁ、こんばんわ」

「前をすいません」と云いながら隣の席に座る

狭い店だ。

「読みましたか?」

「何を?」

「例の先生の事」

「どこの先生だい?」

「島崎先生ですよ」

「「新生」の事かい?」

「ええ、薄々は知ってましたが。伝さんは?」

「ああ、猫に聞いた」

「猫ですか?」

「ああ、あそこ猫飼ってるだろう、真っ黒けの奴、漱石先生の処にいた、耳の先から、しっぽの先まで真っ黒な奴みたいに、ほんとに真っ黒けな奴さ。

只の捨て猫が、瑞猫(ずいびよう)と分かったとたんに、夏目の奥様は大珍重さ。」

「ああ、見たことあります、あれ飼ってるんですか」

「さぁな、野良かもしれない」

「そういえば、黒猫と云えば「月に吠える」いいですよね、萩原先生、猫好きですよね」

「うん、真っ黒けの猫が二匹悩ましい夜の屋根の上で・・ていうぐらいだからね、あそこの猫も黒いんだよ」

「瑞猫(ずいびょう)ですか?」

「そうだね、そこの猫と、藤村先生の処の猫が仕切りと屋根の上でご歓談さ」

相手の男はちょっと気味が悪いと思ったようで、「伝さん、猫のいう事がわかるんですかい?」

と少し後ずさりをして気味悪そうに聞いた。

「ああ、屋根の上でなんか話してるよ、時々聞こえることがあるですよ。」

「へー」

「萩原先生は、最初から詩人だし、今でも詩人だ、奥さんがいないというて点では 藤村先生と同じさ、それに藤村先生だって、最初は詩人ですよ」

「藤村先生の詩は読んだことがないですね。」

「勉強不足ですね」

「千曲川スケッチを中学時代に読んだのが始ですから、ピンときません」

『そんなものですかね」

伝さんは、のけぞりなら

「藤村の詩は、うーん、あまり好きではないな、リズムがない」

「リズムですか?、詩情ではなくて」

「リズムです。」

ちょっと困った顔をした。

「あなた、漱石先生の漢詩が好きだと言ってましたね。」

「ええ、好きですね」

「まぁ、非常に良い漢詩だが、現在でもあまり、よくは理解はされないな」

「漢詩に、韻を踏むというのがあるだろう。」

「ええ」

「韻を踏むような感じが、波のように来ると思うえばいい」

「寄せては返す、波ですか」

「そう波です」

「韻を踏む感じの波ですか?」

「読んでいて気持ちのいい言葉の流れがあるだろう」

「ありますね、萩原先生の作品は、気味の悪い言葉でも、何となくきれいですよね」

「そうなんだよ」

「この先の、この言葉が来るのかという美しい文字が並ぶのだよ」

「泉先生の作品なんかはどうですか、いいですよね、流れる様にい、歌うように言葉が流れていく。」

「では、藤村先生の詩には・・・」

「感情が溢出ているよね」

「なかなかむつかしいですね。」

「うん、まあ勉強するしかないねぇ」

「勉強ですか」

「そうです、勉強は言いすぎですね、勉強とは、勉(つと)め強(し)いる事ですから、自ら問い学と事が必要ではないですか。」

「問(とい)、そうして、学ぶのです。」

「はぁ、もう大学を出て何年もちますが、日々の雑務に追われて、生活に追われて、仕事に追われています。とても問学ぶなどいつ事は・・・」

「問学ぶを、反対にしてごらんなさい」

「問学ぶをですか?、学ぶ問う?、ア、学問ですか」

「そうです、学問は、どこででもできます、自分の姿勢次第です。」

「あのーどうやったら」

「どうやるのかを考えるのも学問です」

「はぁ」

「学問を続ければ、猫の言葉もわかるかもしれませんよ。」

「猫語ですか?」

「そうですね」

「伝ッさんは、いつもそうやって話を妙なところへもっていくなぁ」

「はははははは、でも、新生はいいとは思いません」

「なぜですか」

「自分の不幸をネタにしながら、ご婦人を不幸にした反省の弁がありません。

 自分が逃げたことを正当化しているだけです。

 ご婦人は、不幸のママです。」

「そうですね、第二部はどうねるんでしょうか」

「さぁねぇ」

「もうお帰りですか」

「猫が呼んでいるので帰る。」

「猫ですか・・」

「うん、君の家にもいるだろう?」

「うち、猫なんかいませんよ」

「君の帰りを待つ、細君がいるだろう?」

「あ」

「では、ごきげんよう」

 与三郎は、猫の意味がようやく分かったようである。

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こんな夢を見た 第九夜

真っ黒けの猫が2匹、悩ましい夜の屋根の上で挨拶をしている

「おわーこんばんわ」

「おわーこんばんわ」

細い尻尾をピンと立てて話をしている。

「うちの主人は、病気です」

「うちの主人も、病気です」

二匹は、顔を突き合わせながら、「困ったものです」と云う。

深い深い、嘆息を漏らした。

「最近、手品もしないんだ」

「そうかい、一度見たけれど上手だったけどねぇ」

「一生懸命手帳に、ネタを書き留めている。」

「見てみたいね」

「見ても無駄さ、この手じゃあねぇ」

二匹は手と手を合わせた。

合いの手を入れているようだ。

「うちのご主人、詩集を出すのでお悩みでね」

「高等遊民かと思っていた」

「なんだか悩んでいますよ」

「それで病気ですか」

「日がな一日、机に向かったまま、作品を選んでますよ」

「そうですか、遊んでもらえないんですね」

「はい」

と云って頭を自分で撫でた。

「お宅のご主人は?」

「また病気が出たんだよ・・・・そのなんだなあ、姪っ子をさ、又、手籠めにしている。」

「またかい、それがばれてフランスに逃げたんだろう、3年間も・・・」

「そうなんだけど、帰ってきて、そのうちへ又、家政婦の様に入れてね」

「最初は、家に居たんだ、身の回りの世話をするとか言って・・・兄さんは前のことを知ってて置いたのかい?」

「そうなんだよ、人間は何を考えているのか、判らない」

「わからないねぇ」

「でどうした?」

「それがさ、ばあやさんに感づかれてね、子供たちに、おばさんは、新しいおかあさんになるんですかねぇ」

と云うんだ。

「ご主人は、どう思ったのかねぇ」

「兄さんは、浪費家で、主人の金をあてにているんですよ」

「へーそうなんだ」

「よく、金を無心に来てるよ、兄貴だからと云って、借りる方が偉そうんなだ」

「変だね、姪はまだ家にいるの?」

「ううん、もういない」

「別れたの?」

「あの野ざるみたいな男が、そんなあり得ない。

 ばれそうになってからは、家には入れてない、外で会うんだ」

「そうか」

「そうんなんだ」

「兄さんは借りた金を返すの?」

「そんなもの返すものかね」

「返さないかね」

「返す気がないから、自分の娘を差し出しているんだ」

「ひどいねぇ」

「ひどいだろう」

「そこで、先生考えたさ、これ以上無心されるのはたまらないとそう感じたんだろう」

「そこで姪との情事を小説に書いたさ」

「書いてどうなった」

「兄さんは激怒さ、よくも苦心惨憺んをぶち壊したなと、義理のねぇさんにもばれてねぇ」

「本心は、これで無心ができないと知って激怒したんだろうね」

「そうだろうね」

「結局、娘は放逐されて、台湾に行ったそうな」

「子供が悲しがっただろう」

「でもうちの先生、女を信じないから」

「なんで?」

「奥さんが若いころに書いた恋文を見て、心底怒りが沸いたらしい。

 実家の函館の元彼氏にあてた手紙さ、結婚してから絶望の冬子なんて書くから、ご主人怒っちまってねぇ」

「奥さんは、結局、子供が餓死した後で、死んでしまったんだろう?」

「そうだよ」

「でも、さぁなんであんなに女が欲しいかねぇ」

「さぁ、兄弟で、色に狂った人がいたらしいから、淫蕩なのは血かもしれない」

木曾のふるい宿場町の大家の一族である。

家中では、小さな子供の歓声が上がる。

「うちの旦那の病気は、一生治らないだろうな、理性なんて関係ないからね」

「ある意味幸せだ」

「不幸なのは、姪っ子さ」

「まぁ、幸せ、不幸せなんて言葉は、気の持ちようだからね」

「そうだね」と云いながらしっぽの先から三日月をつなげて、「こんばんわ」と云っている

今夜は、終わりそうない。

 

 

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こんな夢を見た 第八夜

目が覚めて、壁に向かって寝ていることに気が付いた。

下半身に疲れが残こっている感じがしている。

耳もとでなにか音がする。

何だろうと思いつつ、窓開けて寝たかなぁと思った。

寝返りをうつと、カーテンの影で薄ぐらい部屋の中に人形が見えた。

人形の周りが、妙に明るい。

目を凝らしてみると、子供が二人座ってこちらを見ている。

部屋の中はまだ暗い。

ふたりの子供はよく似ているから兄妹かなぁと思った。

でも変である、私は、一人住まいである。

うちの親族に、こんな子供はいない。

それに、ここに来るような家族はいない。

どこから入り込んだのか?

にこにこ笑いながらこちらを見ている。

起き上がって正面を向くと、子供は飛び上がるように立ちあがって

両横に、座った。

両方を交互に見ると。

同時に見上げて、「お父さんだ、お父さんだ」という

どこの子供だと思って、「僕たちどこから入ってきたの」となるべく優しく聞いた。

ふたりは正面に回りこんで、「どこからだと思う?」という

目がくりくりしてかわいらしい。

そうして、「お父さん、今一人なの?」という

何となく「そうだよ、おじさんは一人なんだ」というと

「お母さん死んじゃったもんね」と云いながら二人はお互いの顔を向けてあってから、こちらを向いて「ニッ」と笑った。

笑った顔は、死んだ彼女の眼もとにそっくりだった。

彼女に子供が居たんだと勝手に思い込んだ。

彼女は、やたらと、一時期、子供が欲しいと言っていたことがあったことを思い出した。

すると、「お父さんが悪いんだよ」という

もう一人も、「お父さんがわるいんだよねー」と云った。

なんだか、腹が立ってきた。

少し怒気を含んで、「私は、あなたたちのお父さんではない。」というと

「えー、ひどーい」

「自分の子供、忘れるなんて、ひどーい」

「児童虐待だね」ケラケラ笑う

「もう児童じゃないから・・」シュンとする。

ふたりは、再び顔を突き合わせてこういった、

「私たち、よく似ているけど、本当は、年は、15年違うんだ。」

「だから?」というと

「お父さんに会ったの初めてだけど、お母さんはいつもごめんねと云ってくれてたの。」

そういうと、ちょっと目の色が黒ずんだ。

白目が少ない感じだ。

「お母さんて、誰の事?」と聞いてみた。

ふたりは、ハウリング様に声を出した。

「ひどいなぁ」

「ひどい」

「ひどい」ひたりは泣き出した。

「あんなに愛し合ったのに」

お互いに顔を見合って、和合して

「薄情だね」

「そうだょね」泣いた真似をしているようにも見える。

ひとしきり泣いた風を見せると、正面を向いて

「雪村佳子」

少し、ドキッとした。

覗き込むようにして、探偵のような目で覗き込みながら

「ゆ き む ら け い こ」

「おぼえてるでしょ」

「忘れらないひとだよねぇ~」と云いながら笑う

やはり、彼女の子かと思った。

で、誰との子供だと思った。最初の子は、二十四五の頃?

次の子は、離婚したころだから、前の旦那か?と思った。

「お父さんは?」と聞くと

二人は、指さした。

指の向いている先は私である。

狼狽気味に、「それはないよ」というと

「お父さんが大学生の時に、私ができたけど、お母さんは、お父さんに言ってなかった」

と云いと、背が急に伸びた。

「私ができたと、わかった時に、お父さんに言うつもりだったんだよ。」

「でも、就職活動中だったから」「就職、決まった時に、言うつもりだって。」

「おなかの上から私を撫でてね、こんな年増、いやって云われたらどうしようなんて」

「椅子に座りながら一人で、嬉しそうに言ってたわ」

二人は、急に大きくなった。

まるで大人のような姿に見えた。

「でもね、転んじゃったんだよね」

急に、思い出した。

就職が決まったことを云うと、彼女も重大な発表があるといった。

けれど、約束の場所には来なかった。

家に電話を架けても、出なくて、よくよく聞くと転んで入院したというので病院へ行った。

病室で、「転んじゃった」と云いながら、少し笑って、その後、泣き続けた。

そのことを急に思い出すと、まさかという気で見返した。

怒りで体が震えている。

弁解する様に、「そんなことは、初めて聞いた」というと

「そうだろうね」と云った。

部屋の中は、急に暗くなった

もう一人が、「お父さん、僕ね」と云いながら前に出た。

ベットの上で、後ずさりをした。

「お母さんが、離婚する少し前に、お父さんと、又、会っていたよね、その時に、僕はできたんだ。」

身に覚えはあった。

知人のところで、久しぶりの行き合った。

お互いの連絡先を教えて、程なく、あうとはなしに、逢っていると、昔の関係に戻っていた。

「お母さんは、とっても喜んだんだ」

子供の背が高くなった

「だって、ずーと、結婚してから何やってもできなくて、旦那さんとぎくしゃくしてたからね」

子供の顔がせりあがってくる。

「その頃、お父さんは、もう離婚して、一人で寂しかったんだよね。」

ふたりの子供は、影法師の様に空虚な姿に見えた。

「だから、不思議な縁で再会したお母さんを求めたんだよね。」

ふたりの子供は、下から上から顔を覗き込んでくる。

「男ってやつは」

「男ってやつは」

ふたりが交互に言う

「本当に、しょうもない生き物だねぇ」と云いながら、手をたたいて笑う。

急に、二人は基の姿に戻って、

「お母さんも」

「お母さんも、寂しかったから仕方ないよね」という

大きな空虚な瞳が見上げる

「旦那さんとは、出来なくて、昔の男とすぐにできちゃったのには驚いたよね」

ふたりの姿がまた大きな影法師になった。

「わたしね」と云いながら今度は、顔を傾けながら斜めから覗き込んで

「私につけた名前を云いながら、お母さんが、どうしようと言っていたのを何回も聞いたよ」

鳴き声が聞こえる。

「お父さんには、言えない」

「今、離婚するとこの子の親は別れる別居中の旦那の子になる」

「どうしよう」

「それに、こんな年で、初めて子供を産むのは怖い」

一人で暮らしているマンションの一室で悩んでいる姿は何度も見たわ。

一呼吸を置いて

「でもね、お母さんね、そんなの事をいってても、ものすごく、うれしくて、うれしくて、仕方がなかったんだよ」

泣き出しそうな顔が見えた。

僕は、弁解する様に、「離婚するまで、もう会わないて言われて1年ほど会わなかった。」

すると二人は、

「鈍感だよね」

「ほんと、鈍感」

「その間の産むつもりだったんだよね」と和合して云う。

声が怖い

ふたりの顔がゆがんで見える。

「彼女は、君をどうしたの?」と勇気を奮って聞いた。

「丁度、おばあさんの調子も悪くなったんだよね」

と合いの手を入れるように叫んだ。

一人が、小さな影法師に戻った。

「あのね、お父さん」

正面から彼女の瞳が、僕の眼(まなこ)を見据えたように見えた。

瞳の奥は、暗い。

「お母さんは、産むつもりだったんだ。」

「では、どうして?」身の乗り出して聞くと

「3か月過ぎたころに、おばあさんと一緒に行った病院の廊下で転んだんだよねー」

小さくなった子供がささやく様に、「そこで、流れちゃったんだ。」

両手で、顔を覆うと、自然と涙が出てきた。

「お父さん」

顔をあげた

四つの瞳が見上げている。

「私たち、お母さんにようやく会えたから」

にっこりとほほ笑んだ

向かい合って、両手を合わせて「三人で、喜んでいたの」

「そこでね、お父さんもいたら、きっともっと楽しいと思ったんだ」

そういって、二人は、私の両手をつかんだ。

すると、目の前が真っ暗になった。

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こんな夢を見た 第七夜

秋の少し肌寒い午前。

ある女性と歩いている。

彼女は、退院したばかりだった。

道すがら聞くと、重い病気であった。

今日は、本来、彼女の家族が担うべき役割を私が担わされている。

でも、彼女には家族と呼べるような血族も、親族もういなという現実がある。

数年前に、彼女は父親を見送って一人になった。

病院から駅までの差かは緩くて長い。

以前から、医師から、臓器の一部を取らなければならいと云われて逡巡していた。

数日前に、大量の下血があって、搬送されて、結果、その臓器を取ることになった。

女の女たるゆえんの臓器である。

男には、理解しえない、感じ得ない臓器である。

数年前に、彼女は、価値観の違う夫とは暮らせないと言って、彼女は、一人になっていた。

子供は、ない。

気ままと云いながら、一人身の寂しさを紛らわす手段はあまりなかった。

女友達は子育てに忙しく、時として、連絡があっても、愚痴を聞かされることはあった。

しかし、その愚痴は、幸せのおすそ分けのような話ばかりであったので、これを聞くことの嫌さから、旧い男友達を話し相手に選んでいた。

男とは昔も今も,  男と女の関係であったから甘えやすかった。

×が付いた男であるが、丁度良い距離感があった。

彼女は、天涯孤独という言葉をよく使っていた。

夜半、電話がかかってきた。

電気分解された声は遠かった。

でも妙にはっきりと、「ねぇ、お迎えに来てくれない?」と突然言われた。

何のことかわからずに、即答できなかった

受話器の向こう側で、不機嫌になる様子が手に取るようにわかる。

家で、下血があり、救急車で搬送されて手術を受けたという流れを説明された。

そうして「一人で帰るのは寂しいの」いう

「ちょっと明日は・・」と言いかけると

「もう、女じゃなくなったら用済みてこと?」

「いや、急に言われても、明日は車がない」

「いいの、地下鉄で一緒に帰りたいの」

「歩けるの?」

「ううん、普通に歩けるわ、なんなら、踊って見せてあげようか」

一呼吸置いて

「ジルバは、さすがに無理ねぇ」

とちょっとうれしそうに言い募る。

「いいよ、迎えに行くから無理しないでね」懇願するように言うと

軽い口調で

「はーい、待ってます。」と云って、「お昼行きたいから、11時ごろに来れるかしら?」という

「お昼は、なにを食べたいんの?」と聞いてみる。

「うーん、決めてない、決めれらない」といい、間があって、

「明日の朝、決める」

甘えた声で「「それでいいでしょ」という、声の音程が、目まぐるしく変わる。

怒っているのか、そうでないのか判然としない。

翌日、10時頃、病院につくと、待合の椅子にぐったりとした顔で座っていた。

影が薄い

昨日の夜の元気な声からは想像できないほどの姿である。

入院代も、手術代も精算したから帰れるという。

影が薄いというか、体が小さく見えた

「何となく、やつれて居る風に見る」というと、

「当り前じゃないの」といって、いつもの様に少しつねった。

力が入らないようで、今日はあまり痛くない。

「気が利かないのね」と云いながら、顔をしかめてから、下をペロと出した。

そうして、手を伸ばして

「ねぇ、帰りましょ」云いながら、手頸が、指先を求めた。

頼りない手をつかむと、体を引き上げるように立たせた。

肌につやがない。

軽い、元々痩せてはいるが、本当に軽い感じがする。

掴んだ手は、何となく乾燥して弾力が薄い。

手を握ったまま、病院を出ると急に、こんなことを言い出した。

救急車で運ばれて、持ってきたのはカードと保険証と携帯。

まずその夜思ったのが、

「下着も何にもないわ‥どうしようっておもったの」

看護婦さんに、そのことを云うと、コンビニで何でも売ってますと言われて、その晩行くと、何でもあったわ。

「その代わり、あんまり選べなかったけどね」という

彼女は、手を繋いで来た。

時々、力が入る

脈拍のようなテンポである。

「歩くの、早い、もっとゆっくり歩いて」と云いながら握った手を後ろへ引っ張る。

地下鉄の構内へ降りていく。

歩くのが辛そうなので、抱きかかえるように階段を降りて、途中からエスカレーターを降りていく。

駅の改札まで行くと、昼食の事を思い出したの「どこへ行きますか、家に帰りますか?」と聞くと

「動物園に行きた」いという。

思わず「なんで?」と聞いてしまった。

すると、まず家に帰るという。

荷物を、と云っても入院中に買った衣類ばかりであるが・・家において着替えをしたいという。

荷物を運びこんで、待っててと言われるままに座って待っていると、床に黒い点が続いている。

そうして、バスルームの前には飛び散って固まった赤黒い塊が広がっていた。

バスルームのすりガラスの扉の向こう側にはもっと黒いものが見える。

こわごわと、開けてみると彼女が倒れている。

驚いて肩先を触ると倒れ込んだ。

頬は、氷の様に冷たい。

下半身は血だらけである。

白いスカートが血に染まって黒く変色している

後ずさりして、振り返ると、病院から出てきた時に着ていた白いワンピース姿の彼女が立っていた。

「苦しかったの、早く病院ヘ行ったらと云ってくれたけど」

「女じゃなくなると、嫌われるかと思って行かなかったら、こうなっちゃったの」

「寂しかったわ」後ろから声がしたの振り返ると、冷たくなっていた彼女が顔をあげていた。

もう一度、前を見直すと、ワンピースの腰から下が真っ赤に見えた。

背中を捕まれるような感覚があったので、せり出しそうな気持ちを抑えて、振り返ると、誰もいない。

白いタイルに、細い指の跡がついている。

急いで、見回すと、誰もいない。

部屋は森閑としている。

床の血痕も乾いて砕けた部分と、こびりついた部分がある。

家じゅうを声をけてみたが誰もいない。

持って帰ってきた荷物もない。

合鍵持っているので、外へ出て、鍵を閉めた

そうして、着信履歴を探したがない。

携帯に電話をしたが、繋がらない。

急いで病院へ戻った。

そうして、受付で尋ねると、しばらく待たされてから、

「ご家族ですか」と聞かれたの、「友人です」と答えると

「ご家族の連絡先はご存じありませんか?」と聞かれた。

彼女が、もうこの世にいないことだけわかった。

脱力感があったが、急いで、彼女の家に戻ろうかと思った。

タクシーに乗ると、急に、動物園に行かなければならないと思った。

気持ちの良い秋日和の所為か、動物園は、子供たちでごった返していた。

料金を払って入園すると、彼女が待っていた。

「妙に若い」

「来てくれると思った。」ニッと笑った。

「ねぇ、覚えてる?、動物園から隣の植物園に行ってタワーに登った日の事」

彼女の手が、手を握り締めている。

暖かい小さな手だ。

「ねぇ」

少し前に出て、下から覗き込むようにして聞いてくる。

「最初、怖いて言っていた癖に、登ったらやたらと喜んでいなぁ」と答えると

「そうですよー」と云いながら駆けていく、まるで子供だ。

そういって、動物園を抜けて、植物園のタワーまで行くと、「登るの?」と聞いてみた

「レストランあったでしょ?」

「はいはい」と答えると、軽く背中をたたかれた。

切符を買ってエレベーターで上がるときに、切符を2枚見せたが、入り口の人はなにも云わなかった。

最上階につくと、市内が一望に見えた。

「いーながめだねぇ」という声が聞こえて、腕に縋りつく感じがした。

見るともういなかった。

鈴が、ポケットの中でなった

ポケットに手を入れると、彼女の部屋の合いかぎがあった。

すぐに、エレベーターで降りて一人で寂しく帰った。

20200223加筆

 

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こんな夢を見た 第六夜

眠ろうと思って目をつむると、傷が痛んで寝られない。

交通事故で、前歯が折れてる、あごも割れたが、3か月で治った。

折れた前歯の治療が、あごの骨がくっいてからと云われたせいで、遅れていた。

ようやく、顎の治療が終わったので、前歯の修復と、親知らずの除去が始まっていた。

時々、痛む。

痛いときは痛み止めをと云われているが、常用はよろしくない。

祖父の遺訓である。

でも、夜寝る時には飲むことが多かった。

飲めば、いつしか、痛み止めが利いてまどろんでくる。

なんとなく、眠りに落ちた気がする。

すると天井は、墨を流したような闇に変わる。

墨の流れに、光が当たると、うねって光が跳ね返る。

うねりもあまり目立ちはしない。

地平と天空の闇の間にうす軽い光の層が見える

その薄い光の層に、黒い影が見える。

黒い点が接近してくるようである。

黒い点は、彗星の様に、帯のような長い線を引きずっている。

黒い点は、徐々に実態を持って接近してくる

気味の悪い悪いばあさんだ

魔女のよう

しゃくれた長い顎

長い鉤鼻

釣りがった目

そうして枯れ木のような髪

黒いマント

ギラギラ光る箒

後ろについているのは、眷属の化け物どもだ。

「いひひひひひひひひひひひひひ・・・・」

甲高く、でも嫌な響き方をする声が聞こえた。

こうなったら逃げる

とにかく逃げる。

不毛の大地、隠れるところはない。

枯れた木が立っている

大きな洞(うろ)がある。

隠れようとすると風が吹いて木は倒れる。

倒れると、中は空洞だ。

ひとまず隠れていると。

魔女は、「どこへ行ったぁた。」

「逃げても、隠れても無駄だぁあ」

たけり狂っている。

すると眷属の一匹が、恐ろしく大きな目を見開いて、「ここにいるここにいる」と指さすと

洞(うろ)から引きずり出されて、背中をつままれている

「イーひっひひ、いたいた、悪事善根取り混ぜて、呪ってやる。

 お前ひとりが悪いのではない、お前の祖先が悪いのだ」

そういうと、交通事故で、折れた前歯に、鍵爪を引っ掛けると笑いながら天空へ舞い上がる。

魔女は、狂乱を楽しむように空じゅうを引きずりまわす。

地上の暗闇は、時々妙に明かるいものを見せる、赤かったり、青かったり、すさまじく光り輝く山

魔女の声は、高まり低まりしつつ疾走する。

小一時間もすると飽きるのか、鍵爪を外して、空から放り投げる。

今日は、赤いところだ。

落ちると、赤黒い血の池の中を這いずり回る。

乾いて固まった血が、バリバリと割れる

割れるたび新しい血しぶきが上がる。

すると、巨大な女郎蜘蛛、顔は悪鬼羅刹であるが、血の池を流れるように滑ってくる。

そうして、逃げる亡者を頭からバリバリとかみ砕いている。

血の池の中では、強大ウジ虫が人の体を苛(さいな)んでいる。

薄皮を選んで噛み込んでいる。

身をすくませていると、魔女が来て、こんなところで楽をさせて楽たまるか。

と云いながら、再び鍵爪を体に食い込ませて浮遊する。

「ああ早く楽になりたい」と思うと、

「神羅万象すべては自分の罪業より発す。」という

自分の罪は軽からんとも思うのは、罪が重いという。

こうして、毎晩、責め苦にあうのは、自分の罪深さを知らないからだろうか。

夜は明けない

 

 

 

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